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会計にも表れる!? 出版業界の特異性

 

出版業界って、通常の卸小売業界とは大きく異なる点があります。

あまり皆さん気にしていないと思いますが、本の価格って全国共通でしょ?

おかしいと思いませんか?

通常の物品であれば安売り店が存在してもおかしくないはずなのに、本だけは全国一律の価格です。

実はここに、出版業界のひずみが隠されているんです。

 

本の価格が全国一律なのは、本の流通に理由があります。

実は本って、返品フリーな商品なんです。

書店は仕入れた本が売れなければ、期限や数量など何らの制限も受けずに取次(出版界における問屋さんのことです)に返品することが出来るんです。

つまりこの点だけとって見れば、書店は不良在庫を抱える心配がないってことになります。

もちろん取次は、その返品分を版元に返してきます。

ここでも完全返品フリーです。

売れない本を作った版元が責任をとれってところなんでしょうか?

ってことは・・・。

そうです、版元さんはいつ返品の山がくるかビクビクしながら過ごさなきゃならないってことになります。

ちなみに本の返品率とはおおむね4割程度だということです。

こう考えるとすごいですよね、4割もの商品が返品されてくるんですから。

 

そしてこの出版業界の特異性が、そのまま会計にも反映されているんです。

それが返品調整引当金です。

あまり聞きませんよね?

これもやはり前回同様引当金の一つとなります。

引当金の要素に当てはめてみましょう。

引当金の要素は3つ。

(1)将来の特定の費用又は損失であること。

(2)その発生が当期以前の事象に起因すること。

(3)発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができること。

でした。

これを返品調整引当金にあてはめてみると

(1)将来本が返品されることによる損失であり

(2)その返品は、その本を当期以前に発行したことに原因があり

(3)発生の可能性が高く、おおむねの返品率が把握できていること。 

ということになります。

つまり、将来確実に発生することが見込まれる損失について、その原因が当期にあるならば、当期の費用としてとらえることが費用収益対応の原則からみても正しいということなんですね。

 

ところでこの返品調整引当金、前回の貸倒引当金とは性格の異なった引当金となります。

貸倒引当金は【評価性引当金】と呼ばれるものでした。

これは将来何らかの費用などの支出が見込まれるわけではなく、資産の貸倒分を見越すことによってその資産を再評価するというものでした。

これに対し、返品調整引当金は将来何らかの費用などの支出が見込まれるものです。

わかりますよね、本が返品されてきたらお金を返さなきゃなりませんから。

というところから、返品調整引当金は将来の負債を引き当てておくものだと考えられます。

ここから返品調整引当金は【負債性引当金】と呼ばれるんです。

ちなみに負債性引当金にはほかに、賞与引当金や退職給付引当金などがあります。

これらもすべて、将来の賞与支給や退職金支給のために引き当てておくものとなります。

 

 

で、実はここからが本題です(笑)。

この出版業界の特異性が、最近の出版界で起こっている倒産の元凶なんです。

簡単な話なんですが、販売した商品のうち4割が返品されるのであれば、当初の販売代金のうちの4割は返品資金として置いておかなきゃならないわけです。

そのためのものが返品調整引当金だったりするわけですが、ここが会計の大きな落とし穴なんですね。

利益の流れとお金の流れは全く違うんです。

これに気づかずに使っちゃうんですよね。

するとどうなるでしょう?

返品されたときには、その返品資金が不足することになります。

返品資金が不足し、その手当てが出来なければ・・・。

そうです、そこには倒産という事実が待ち受けているんです。

倒産するわけにはいきませんから、版元さんは一生懸命次の本を出版することになります。

本を出版すると、その本を取次さんに買ってもらえますからね。

版元さんはこうやってお金を回しているのが現状なんです。

その結果起こっているものが、今の出版ラッシュなんです。

 

現在年間7万5千冊以上もの本が出版されているとのことです。

これを毎日に換算すると、なんと200タイトル以上っ!

すごいでしょ、毎日毎日200冊以上の新刊が発行され続けているんです。

これだけの本を出さなければ、資金繰りが回転しないってことなんでしょう。

 

しかしこの流れ、今になって少しずつ変わろうとしています。

最近ではディスカヴァートゥエンティワンさんが有名ですが、書店完全買い取り式に変わりつつあります。

つまりは通常の商品販売と同様になるというわけですね。

その代わり書店の取り分を増やしているようです。

こうなると、書店側は買取分の本だけは一生懸命売ろうとし始めます。

売れなければ、その損失は書店がかぶらなければならないからですね。

しかし売れば利益は大きくなります。

 

出来る限り利益の流れとお金の流れを一致させることが、資金繰りの極意の一つとなります。

最近のベストセラービジネス書には、利益がすべてとも取れるような表現が見受けられますが、このあたりも考慮しながら利益だけに偏らずにお金の流れにも敏感になってくださいね。

   

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2008年4月28日